経営者に聞く“幸福に感じる企業”の秘訣

「人生今日が初日」経営のプロが心に刻む人生を変える言葉 -新 将命さんインタビュー-

「経営のプロフェッショナル」として50 年以上、世界各国の企業の経営に幹部として携わり、現在も、様々な企業でグローバルにアドバイザーや経営者のメンターを務める傍ら、リーダー人材の育成を使命として講演やビジネス書籍の執筆も多数行うなど、精力的に活躍されている新 将命さん。新さんは、(株)たまき代表取締役社長の玉置晴美が、新卒で就職したジョンソン・エンド・ジョンソンで、初めて企業のリーダーとして仰いだ「社長」でした。
今回、連載初回にふさわしいのは、新さましかいらっしゃらない!という玉置の熱望により実現したこの対談。翌日からパリへ飛ぶという多忙なスケジュールの中お時間をいただき、新緑の美しい季節に、新さんの素敵な邸宅において実現しました。

「幸福と感じる企業」には優秀なリーダーが不可欠

玉置:お忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。私にとって人生初の「社長」として尊敬する新さんは、今でも私の中では「社長」です。つい当時のように「社長」とお呼びしてしまうことをお許しください。私も現在は「たまき」の代表として経営者の端くれとなりましたが、自分では、まだまだだなと感じています。今日は社長のお話を伺って、企業のリーダーとしての心得を、少しでも勉強できればという気持ちで参りました。まず私が第一に考えているのはお客様や取引先の方々、社員など、会社に関わる全ての人が「幸福に感じる企業」にしたいということを理念として持っているのですが、企業に所属する人、関わる人が「幸せに感じる企業」とは、どのようなものだとお考えになりますか?
新:一番大切なことは継続性=サステナビリティです。まずリーダーは、会社を潰さないこと。会社を潰すというのは、単に経営者の失敗では終わらず、社員や関係者、取引先、地域社会など、数多くの人に迷惑をかけることになります。では、倒産させずに永続企業にするために必要なのは何かというと、ちゃんと売り上げがある、利益があるということですよね。でも、利益追及だけではいけません。利益追究だけで起業する若者は大勢いますが、そのほとんどが数年で消えてしまいます。では、利益はどうやって出すか。それは顧客が払うお金に対して満足してくれるかどうかということなんです。顧客を満足させるのは誰か? それは社長を筆頭とした社員です。社長の経営者品質が高く、優秀であれば、人間として信頼できて仕事が早い「良い社員」が育つ。良い社員の仕事にはお客様も価値を見出してお金を払ってくれる。そうすれば結果として利益が出るし、株主も満足するんです。「魚は頭から光る」と言いますが、まず経営者が経営能力が高く、リーダーシップがあることが、幸せな企業を作るために重要な条件なんです。
玉置:ビジネスの世界では、様々なハウツーなどがありますが、教科書では理想とされていても、「いや、このような手法、考え方もある」というようなことを教えていただけますか?
新:経営の世界では、これまで流行した様々な言葉があります。トータルクオリティマネジメントとかリエンジニアリング、バランストスコアカードなど、多くの言葉が氾濫しましたが、それらはあくまでもハウツー、道具であって、流行した横文字のツールが直接経営に貢献したという事実は、まずありません。経営者はそうした道具に振り回されてはダメなんです。道具は所詮道具ですから、経営者がきちんと経営原則を心得ていてこそ、そうした道具の効果を活かすことができるんです。

若く優れた人材を活かすために

玉置:いつの時代も、「今の若者はダメだ」と言われることがありますが、私は必ずしもそうは思わず、優秀な若い人たちも多くいると思っています。そんな若い人材の育成や、活かし方はどのようなことに気をつければ良いのでしょうか?
新:紀元前2000年のエジプトの壁画にも、年長者が書いたと思しき「今時の若いものは……」という文章があったといいます。それはいつの時代も同じ感覚なんでしょうね。でも実際のところ、若い人は非常に優秀ですよ。輝きを放っている人や、自分をブラッシュアップしていく人はあちこちに大勢います。とはいえ、総論で見ると、日本の若者は元気がないとも言えます。総理府の発表した統計によれば、主要各国と比べた時に、日本の若者は「やる気がない」と感じている人が最も多く、「自分自身に満足している」と感じている人が最も少ないという数字が出ています。確かにMBAを取るためにアメリカに行く若者は激減していて、起業しようという人は減っている。今の日本には「上向き・外向き・前向き」という人が比較的少ないんですよね。でも、だからこそ、そういう貴重な人を伸ばさなくてはいけないのですが、日本は敗者に冷たくて、起業して失敗すると「ダメな人」という烙印を押してしまう。投資家や銀行、役所なども厳しい目を向けてきて、再チャレンジがとても難しいですよね。逆にアメリカなどは、会社を起こして失敗した人の経験を重んじて、そういう人材を伸ばすのがとてもうまいので、このままの日本のやり方では、やはり国際競争に勝つことはできません。
玉置:若い人材が、最初の判断とはうって変わって急激に伸びた、急に化けたということが、私も部下を見ていてたまにあるのですが、新さんにも、そんなご経験はありますか?
新:営業部で使い物にならなかった人を経理部に配属したら、とてもいい仕事をしたという人がいました。人材は適材適所がとても大切です。どんよりしている人がいたら、きちんと個性・適性を見極めて、それに合った仕事を与える。中には上司が変わったら元気になる人だっています。ウマが合わない、相性が悪いというのはどうしてもありますから、そういうことに、周り、特に上司の上司が気がつくことが重要です。うまく人材が活かせれば、その人も幸せだし、上司も会社も幸せですよね。

●これからリーダーになっていく人へ、絶対にして欲しいことは? という質問に、新さんは「企業理念を作ること」と答えてくださいました。みんなで夢や理想を作ること。それはとても簡単にできることのようで、とても難しいことでもあります。売り上げなど短期目標を追いかけるだけでは、疲労感と閉塞感だけが溜まっていってしまう、と新さんは言います。リーダーが高らかに将来の夢を語り、それを支える社員の夢がそこに重なる。それこそが、よき企業を引っ張る、よきリーダーの必須条件なのでしょう。

国際社会と日本

玉置:世界を飛び回る新さんから見て、日本の優れた点とはどこにあるとお考えでしょうか。
新:日本の企業・日本人が優れているのはアテンション。注意力の高さは非常に優れていて、製造業でも厳しく細かい。そしてカイゼン。トヨタの改善マインドの強さは世界でも有名ですね。さらに、チームでみんなでいい仕事ができること、おもてなしや、思いやりの心があることなどは日本の文化の特色ですね。
玉置:では、逆に日本の弱みはどういうところでしょうか? 日本人が取り入れるべき、海外の人の姿勢などを感じることはありますか?
新:日本人の良いところとは、裏返すと弱みであるとも言えます。チームワークの良さは個性の否定にもつながります。新入社員のくせに、ヒラ社員のくせに、女のくせに……と、出る杭が打たれる風潮があります。一方、出ない杭は腐ります。日本の会社には腐った杭がゴロゴロしているのが現状です。継続性を認めながらジワジワ行う改善には強いけれど、革新や改革に対しては弱く、ガラガラと壊してより良いものを作る、という、いわゆる創造的破壊ができません。しがらみ文化ですね。「馬車を10台繋げても、所詮列車にはならない」という言葉がありますが、日本人は馬車をつなげることには強いけれど、列車が作れない国民性だと言えます。そして、ため息が出るくらいの弱みは、スピークアウトができないこと。日本人は自分の考えや思いをどんどん口に出して言うことがとても苦手ですね。例えば私が20人を相手に話をしたときに、何か意見や質問は? というと、アメリカ人なら6〜7人が、中国人なら7〜8人が、インド人なら全員が手を挙げます。でも、日本人だと200人の講演会でも手が挙がらないんです。名指しで発言してもらうといい意見を持っているのに、自分から発言することがとても苦手ですね。それは先に言った、失敗を認めない文化に依る「今までこんなことを言ったら叱られた」とか「見当違いのことを言ってしまったら恥ずかしい」という考え方が染み付いてしまっているからでしょう。でも、MBAのクラスでは発言する量というのが重きを占めていますし、国際的な場所で活躍するためにはとても重要なことです。

忘れられない言葉、人生を変えた言葉

玉置:では最後に、新さんが上司から言われた、忘れられない「人生を変えた言葉」を教えていただけますか?
新:ジョンソン・エンド・ジョンソンの日本法人の社長をやっているときに、フランク・ディアンジェリという本社の上司から言われた「自分はよくできた人間だと思った瞬間から、お前は過去の人だ( If you think you are good enough,you are finished.)」という言葉。そして、カッパブックスを作った神吉晴夫さんが1963年に出版した「現場に不満の火を燃やせー ビジネスマン入門」。という、インパクトのあるタイトル。仕事の現場で、あらゆることに、これはこれでいいんだろうか? と疑問や不満を持ち続けて、どうやったらよくできるか考え続けろということ。そして、ディアンジェリさんの言葉を受けて、私が自分で作った「現状否定、対策肯定(positive discontent)」という言葉。そしてもう一つが、もっと若い頃に先輩から教わった「人生は取り返しはできないが、やり直しはできる」という言葉ですね。そこからヒントを受けて、よく講演でも話すのが「人生今日が初日」という言葉。これは自分の人生を変えた、自分で作った言葉です。
玉置:感銘を受けた言葉にそのまま満足されるだけでなく、ご自分の言葉にされるというところが、まさに「人生を変えた言葉」を実行していらっしゃることの証ですね。私の胸にも刻んで参りたいと思います。本日はたくさん勉強になり、感動しています。新社長!ありがとうございました。

記事 : 吉田メグミ/写真 : 牛尾幹太

新 将命(あたらし まさみ)
1936年東京生まれ。早稲田大学卒。
株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長。
シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップなど、グローバル・エクセレント・カンパニー6 社で社長職を3社、副社長職を1社経験。2003 年から2011 年3 月まで住友商事株式会社のアドバイザリー・ボード・メンバーを務める。「経営のプロフェッショナル」として50 年以上にわたり、日本、ヨーロッパ、アメリカの企業の第一線に携わり、今も尚、様々な会社のアドバイザーや経営者のメンターを務めながら長年の経験と実績をベースに、講演や企業研修、執筆活動を通じて国内外で「リーダー人財育成」の使命に取り組んでいる。