リーダーに聞く“幸福に感じる企業”の秘訣

株式会社大和総研主席研究員 -河口 真理子さんインタビュー-

(株)たまき代表取締役社長の玉置晴美が、様々なジャンルで活躍する「リーダー」にお話を伺うスペシャル企画、第2回。今回、お話をお伺いするのは株式会社大和総研主席研究員の河口真理子さんです。玉置と河口さんは、小池都知事が環境大臣だった際、「環境・女性・ビジネス」をキーワードに結成された「環境ビジネスウィメン」というグループの同期メンバーでした。
今日は、大和総研にお邪魔して、環境問題と女性リーダーのありかたについて、様々な側面からお話をお聞きしました。

玉置:河口さんと私はプライベートでも仲良くさせていただいており、その暖かいお人柄の大ファンです。今日はリーダーとしての河口さんに、改めてお話を伺いたいと思います。河口さんは、一橋大学・大学院ご卒業時に「環境問題と金融の融合」をテーマに卒業論文を書かれていらっしゃいましたが、当時理想とされたテーマは、いま、どのくらい実現しているでしょうか。

河口:大学院卒業当時のテーマは「環境税と排出権取引」でした。(編集注※Co2排出量の削減目標をどう達成できるか、金融の面から論じたもの) 今から25年ほど前、1994年のことです。

玉置:当時としては革新的な、随分先を行く内容だったのですね。

河口:そうですね。私は当時から「環境問題は、経済市場の問題であり、技術の問題ではない。今後は、環境面に配慮する企業が評価されるようになるだろう」と認識していたのですが、その意見が受け入れらえる土壌は、まだありませんでしたね。それが今では、金融安定化理事会(FSB)において、各国の環境問題について金融と同じレベルで介入していくべき、と言われるようにまでなりました。環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資である「ESG投資」も、世界全体で、330兆円(2018年)と、2016年から2018年で34%も増加しています。つまり、経済システムは良くなっていると言えるのですが、問題は、それ以上に地球環境の状況が悪化しており、社会制度が多少整っただけでは、現実が変わるわけではないということです。大胆な行動に移さなければ、悪化の一途を辿るのみです。現在も、気候変動や異常気象は悪化しています。

玉置:確かに、法律や制度が整っても、実行しない限り環境は変えられませんよね。

河口:“エコロジカルフットプリント”という言葉があります。これは、地球が生み出す自然資源に対し、人間がどれだけ消費したかを表すもので、環境に与える負荷を表す指標です。昨年2018年度の数字を見ると、地球が生物を生み出す力に対し、人間の消費が1.6倍となっています。つまり、一年かけて使うべき資源を、8/1に使い切ってしまったということなんですね。今年はさらに早い、7/29に使い切ってしまうのではないかとも言われいます。私たちは地球の資源に対して常に赤字で、借金が多い状態になってしまっています。つまり、もっと急いで対応しなければならない状況なんです。

玉置:早急な実現のために、どのようなことが必要なのでしょうか。

河口:企業の取り組みも重要ですが、そもそも企業は消費者のニーズに合わせて商品を作るのが仕事です。ですから、一消費者としての私達が変わっていかなければなりません。消費者がエコな商品を望んでいるとわかれば、企業も変われますよね。また、企業としては「エコな製品を提供できる」ことを積極的に伝えて欲しいですね。玉置さんも、ネックウェアでリサイクル商品を扱っていらっしゃいますが、その存在を発信することが、今後も強いメッセージとなっていくでしょうね。

玉置:今、新しい学問、新しい学科が増えています。河口さんは大学で教鞭をとられていますが、最近、ご興味を持たれた学問や学科は何でしょうか?(ご自身の専門も含む)また、若い学生たちと接する中で感じる、その学問に対する学習意欲は、どのようなものでしょうか。今後社会に活かされるべき若い学生たちの姿勢などあれば、教えてください。

河口:最近は、サステナビリティ関係の学科が盛んになっていますね。持続可能な開発目標、SDGsも頻繁に取り上げられるようになりました。最近興味深く思うのは「地質学」です。地質学には、2000年に提唱された「人新世(じんしんせい)」という言葉があります。これは、人類の活動が作った地層のことで、人間が地球を改変している時代になったことを表すものです。

※ 2000年にドイツの大気化学者P= クルッツェンが、地質時代の区分の一つとして提唱した時代。それまで「約 1万1700年前から現在までのを 完新世と呼ぶ」としていたのに対し「完新世は終わっており、新たな地質時代、人新世が始まった」と提唱した。

河口:この人新世という言葉は、全体を俯瞰して見たからこそ生まれた言葉です。これと同様に、学問の在り方も今後は変わっていくんじゃないかと思うんですね。20世紀の学問というのは、還元主義であり、顕微鏡で小さいところまで見ていくようなものでした。小さく分解すればするほど、真理に近づける、という考え方です。一方、21世紀は、広く見る事が大事になる。ホリスティックに物事の繋がりを見る学問に変化しつつあります。今まで、専門家たちは、それぞれ細分化された蛸壺に入っていて「専門外はわからないよ」と言う在り方でしたが、今後は、お互いの分野を行き来しながら、高いところから物を見る。さながらナスカの地上絵のように鳥瞰図で全体を見るように、学問の在り方が変わっていくでしょう。また、最近では既存テクノロジーの再活用にも注目が集まっています。

玉置:再活用とは、具体的にどんなものでしょうか。

河口:アメリカのコロラド州にはロッキーマウンテン研究所と言う場所があります。これは、エイモリー・B・ロビンズという学者が、ソフトエネルギー、つまり自然エネルギーの利用を実証する為に立てた施設です。寒い山の中にあって、一切暖房がありません。代わりに1980年代までの既存の技術を使って部屋を暖かく保っています。どれもアイディア活用されたものであって最新のテクノロジーではありません。既存の技術でも、やる気になったらできるということを証明しているんですね。こんな風に過去の技術でも、使い方の工夫で、今になって有効になる場合もあるわけです。

玉置:なるほど、例えば昭和の時代にかかれた論文でも、当時は正当に評価されなかったものがあるかもしれませんよね。この発想が今なら使える、というのもあるかもしれません。

河口: 今なってわかるということですね。

玉置:その在り方の中で、若い人達の考え方は、どう変化していくと思われますか。

河口:今の世代は、サスティナブル、SDGsに関心が高いですよね。お金儲けより、社会の人のためになって行きたいと思える人が多い。自分の幸せよりも、社会的課題にどうやって取り組んでいくのかが目標だという人が多いんですよね。

玉置:実は、私もそう感じています。

河口:昔は形のあるものが優先されていましたし、学問においてもそうです。でも、これからは心の問題が大切になるでしょう。例えば、マインドフルネス。近年シリコンバレーの企業で注目されている概念です。物質主義が究極になった結果、今後は精神的な部分、をどうするかが大切になったわけです。

玉置:彼らは既に鳥瞰図で現代を見ているわけですから、それは素晴らしいことですよね。

河口:ネットで情報がとれるようになったのも、大きな理由の1つかもしれません。これまで社会のリーダーは専門的分野に強く、還元主義的な成功体験を持っているタイプが多かった。これからのリーダーは最初から俯瞰で物を見れる。残念ながら、現役リーダーは、まぁその新しい視点を持てていないのではないか、と思いますね。

玉置:彼らの持つ新しい視点を、私たちも取り入れて行かなければなりませんね。

河口:若い世代の人で感心するのは、反応の速さと行動力です。ただし、その瞬発的反応が悪い方向に働いてしまう場合もありますよね。タイムラインでニュースを判断するのに慣れてしまったせいか瞬間的に「これはいいね、悪いね」を判断してしまいがちなんです。どんどん新しいものをみて、情報を取得するのは良いことですが、じっくり寝かせることで見えてくるものもあるはずです。また、一方で慎重な学生も多い。ちょっとでもわからないことがあると答えないし「今の力では出来ない」と諦めてしまいがち。自分で自分の可能性を狭めることのないようにして欲しいですね。

玉置:河口さんも私も、子育てをしながら仕事をしてきました。第一線で働きながら、子育ても両立することは、大変だったのではないでしょうか。

河口:子育てをしながら働くという事は、常に効率的に仕事が必要になる、ということでもあります。子供は予測不能ですから「明日出社できないかもしれない」と、常に先のことを考え、短期決戦型で勝負するスキルが磨かれるんですよね。

玉置:その感覚、とてもよくわかります。

河口:実は、私が所属している大和総研全体が子育てを優先的に考える企業になってきたんです。10年ほど前から始まった取り組みですが、年に一度「家族の日」が設けられていて、その日は家族を会社に連れてきて良いというもので、それぞれの部署が子供たちの為に出し物をやるので、社内が遊園地のようになるんです(笑)子どもたちと名刺交換をしたりもするんですよ。

玉置:面白い取り組みですね!10年前では、随分珍しかったのではないでしょうか。

河口:そうですね。これまで、仕事という面でしか見えていなかった人の「父親、母親」という別の側面が見えるのも面白い現象でした。子育て中にない人との意識のギャップを埋めるのにも、役立っていたように思えます。例えば、子どものない人は「育休をとれていいな」と思ったとしても、育休中の本人は言うことをきかない子どもの世話より「会社のほうが全然楽」と思っていたりするものですから。

玉置:私の例を申しますと、子育て世代にはある程度の融通をきかせています。例えば会社規定にはないことにも対応します。ただし、子育て中の社員に対しては、「子供が熱を出したときなど、気持ちよく周りの人間が”早く帰って”と送り出してくれるかどうかは、自身の日頃の取り組み方、努力次第だと思う」と伝えています。働きながら子育てをしようと考えている女性にアドバイスはありますか。

河口:「子どもがいる」ことを、出来ない理由にしない、ということでしょうか。子どもを免罪符にして権利を主張するばかりでは、どうしても摩擦が起きます。さきほど短期決戦という話をしましたが、子育てをしながら働いていることが、プラスになる働き方をしていけば、自然と周りとのバランスが取れてくるのだと思います。あとは、会社側がフレキシブルに対応できるように変わっていくと良いですよね。

玉置:以前、社員から「どうしても都合がつかず誰にも預かってもらえなかったので、子供を連れて出社して良いですか」と言われ、応じたことがあるんですよ。

河口:今は働き方改革やテレワークという言葉もできて、アウトプットさえ出来ればOKという時代になってきました。在宅勤務や子連れ出社が可能な仕組みが増えると良いですね。とは言え、子供が側にいる状態では「仕事にならない」場合もあるでしょうから、状況に応じて、働き方を選択できるのがベストなんじゃないでしょうか。また、可能であれば都心に住む、というのも案です。特に子供が小さい時は、通勤時間を短く、すぐ帰宅できるようにしたほうが、トラブルに対応できます。都心は財政が豊かな区も多く、子育てに対する行政サービスも良いので、通勤コストと家賃とのバランスを考えても、おすすめの場合も多いです。

玉置:アフリカ、新興国などへも行かれる機会のある河口さん。日本と比べればインフラ等の遅れはあるかもしれない一方で、日本と比べて各国の方が文明、文化などを含め進んでいると感じる部分もあるのではないでしょうか。

河口:アフリカの人は、とにかく身体能力が高いとかんじました。ウガンダに、開発援助の拠点を見に行ったことがあるんですが、車が100kmぐらいでビュンビュン走っているところの脇を平気で歩いているんです。「そこしか道がないから」と、通学や仕事のために何キロも歩いている。ウガンダの地方では、自分たちでレンガなどで家を作っていくんですが、アナログな身体能力がないと、住むところを作れないわけです。それに比べて私たちは、必然性がないからかもしれませんが、ちょっと歩くと疲れてしまうなど、身体能力が低くなってしまっていますよね。3.11のような地震などで公共交通機関が停まった時も、何キロも歩くことに慣れていないし、サバイバルに関する知識がないから「火を起こそう」「家具を壊して燃やそう」と言われても出来ないと思うんですよね。

玉置:日本人は今、頭脳ばかり発達しているような感じですよね。危機的状況下になったら、彼らの方が生きていく術をたくさん持っているのかもしれません。

河口:あと見習って見ては、と思うのはタイです。微笑みの国とも言われていますが、男女ともに笑顔がとても素敵なんです。

玉置:笑うって、口先だけではできないことですよね。彼らには、心の豊かさがあるのでしょうね。

玉置:タイでは少し前に、サッカークラブの子供たちが洞窟に閉じ込められたことがありましたよね。子供たちは、コーチの教えを守り、瞑想状態になることで、エネルギーをロスしない方法を取れたんですよね。出てきてからは「皆様に迷惑をおかけしました、ありがとうございました」と言って、子供達が出家したわけです。これが日本人だったらどうかと考えてみると…まず「誰のせいなのか」という犯人探し、責任問題になっていたと思うんです。

河口:日本は最近、他罰的になりすぎていると感じますね。日本は「豊かな先進国の私達」という状況そのものに胡座をかいているかもしれません。どんなにインフラがすすんでいても、サバイバル能力とコミュニケーション能力がなければ、いざと言う時に困ると思います。

玉置:最後に、これからのリーダーに必要だと思われる要素を教えてください。

河口:最近、ダイバーシティという観点から、女性を役職に入れよう、女性の社会進出促そうと言われていますよね。ではなぜ、女性の時代と言われるのか。先程、21世紀の新しい学問の話をしましたが、20世紀までは、競争して経済拡大したいく時代だったんですね。それが、21世紀になって、地球が1つしかない事に気がつき、オーバーキャパシティになっている事に気づいた。競争して勝っても、もう資源がないんです。こうなると、戦いより共生が求められるようになりますよね。「みんなで仲良く」とか「共感する」という能力は、女性が得意とする分野ですから、これからは母性原理の時代になるでしょう。 2018年の箱根駅伝で4連覇を果たした青山学院大学の陸上競技部は寮生活を送っていて、監督の奥さんが寮母をされていました。選手たちの生活などに気を配り、彼らを成功に導きました。今後は、その寮母のように、母性でチーム全体を引っ張っていく力が求められると思います。そういう意味でこれからのリーダーシップは「共感型リーダーシップ」であり、面倒見が良い、母のように考える女性や男性の時代がくると思いますね。「女性」性が必要になると思うんです。

玉置:個人的に「男勝り」という言葉が好みではないんです。男勝りにならなくても、リーダーシップはとれるはずです。最近はこの言葉もあまり耳にしなくなりました。

河口:男性を真似して女性らしらを伏せる必要はないですよね。女性が女性らしいスタイルで生きていける時代になったと言えるのではないでしょうか。

玉置:本当ですね。今日は、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

記事 : 弓月ひろみ/写真 : 牛尾幹太

河口 真理子(かわぐち まりこ)
1986年 一橋大学 経済研究科修士課程(環境経済)修了。大和証券入社。
1991年 大和総研へ転籍。
1997年~ 環境経営、SRI、CSRの調査に従事。
2010年~ 大和証券グループ本社CSR室長、大和総研 環境・CSR調査部長を歴任。
2012年4月~ 調査本部 主席研究員。
2018年12月~研究主幹。現在に至る。
気候変動問題、水資源や鉱物資源不足、森林減少砂漠化、生物多様性の喪失、グローバルな貧富の差の拡大の問題、など私たち人類が直面する課題をどう乗り越えて、いかに持続可能な社会に作り替えていくのか。そのために企業の立場(CSR)、投資家の立場(ESG投資)、生活者の立場(エシカル消費)からすべきことは何か、をテーマに研究、提言、発言をしている。

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