リーダーに聞く“幸福に感じる企業”の秘訣

【お詫び】2019年に対談シリーズの連載がスタートしましたが、昨夏から昨年末にかけて弊社代表取締役の玉置が体調不良、また今年からは新型コロナウイルスの影響により、対談シリーズを中断しておりました。今後は定期的に更新して参ります。引き続きよろしくお願い申し上げます。

株式会社ワン・パブリッシング代表取締役社長 -廣瀬有二さんインタビュー-

株式会社たまき 代表取締役の玉置晴美とは、横浜市立間門小学校の同級生、いわゆる「幼なじみ」の間柄である廣瀬有二さんは、慶應大学文学部卒業後、(株)学研パブリッシング、(株)パーゴルフなどの出版社に勤務。(株)学研プラスの取締役就任を経て、2020年7月1日に学研プラスと株式会社日本創発グループの共同出資会社である株式会社ワン・パブリッシングの代表取締役に就任されました。雑誌の出版だけでなく、オンラインメディアやEC、イベントなど、現代的な広い視野での「パブリッシング」に臨む新会社のリーダーとなった旧友と、経営者同士という立場での対談が実現しました。

常に自分がやってきたなと思うのは「新しいことへの挑戦」

玉置:本日は対談のお願いを快諾していただきありがとうございます。このたび、同級生が大手企業の社長になられたことを、私もとても誇らしく、嬉しく思っています。自慢の友人です。まずはおめでとうございます!!

廣瀬:ありがとうございます。学研グループは大手企業ですが、ワン・パブリッシングは「これからビジネスを大きくしていくぞ」という志を持ったベンチャー気質の会社なんです。これから出版をベースにコンテンツのデジタル化を推進することで、多くの読者や利用者の皆さんに楽しさを提供していける、未来のある会社だと思っています。

玉置:私も社長ではありますが「二代目」として引き継ぐ形での就任でした。廣瀬社長は、大学卒業から企業に就職されてキャリアを積み、社長に就任するまで、大変な努力をされてきたと思いますが、これだけは「努力してきたぞ」ということはありますか?

廣瀬:努力とは違いますが、振り返ってみると、常に自分がやってきたなと思うのは「新しいことへの挑戦」ですね。我々の世代では手書きが当然だった大学の卒論で、当時発売されたばかりだったワープロを使って書き上げたり、パソコン通信の黎明期にプログラミングをしてみたり、アップル製品をはじめ様々な新しいガジェットを使ってみたり……。とりあえず見てみる、やってみる、という感覚、常に好奇心を持ち、実際に挑戦してきたのが、結果的に仕事の成功につながったと思っています。

現在~未来の情報化社会はいいことだらけ

玉置:出版、コンテンツ、ECに携わる仕事をされていると、時代の動きを敏感に感じられると思います。人の考え方や社会、市場の動きなど、時代の変化について廣瀬社長のお立場から感じることは何でしょうか。

廣瀬:現在の状況を、過去のいつと比べるというのは難しいのですが、例えば20年前の2000年頃はまだ景気の良さが残っていました。当時は「あの人よりも…」「他の誰かよりも…」という比較の中で優越感を感じたい、という傾向が強かったように思います。そこからリーマンショックを経て苦しい時代になってくるにつれ、人との比較ではなく、「自分自身がどう満足できるか」というマインドになっていきました。現在はマスの中でではなく、ひとりひとりが自分の価値観で満足を突き詰める時代になっています。それは経済だけでなく、テクノロジーの進化にも起因するものです。テレビや雑誌、書籍だけしか情報が得られなかった時代から、インターネットの広がりにより取得できる情報量が飛躍的に増えました。その膨大な情報を取捨選択して吸収することが個性の形成につながるようになりました。押し付けられる情報でなく、欲しい情報を自分で引っ張ってこられるようになったのです。デジタルネイティブ世代の情報収集の仕方は見ていると凄いですよ。とにかくスピードが速いし、情報の母数が大きい。昔は同じエリアに住んでいる人たちは、同じような文化を持っていたものですが、今は個人個人でそれぞれの文化が形成されているように感じます。

玉置:それについて良いところ、悪いところはありますか?

廣瀬:若い人がそれだけ情報に触れられるのは良いというより羨ましいですね。たとえば大学受験するとなっても、効率的に勉強ができますし、仕事でも少ない予算と人数でやりたいことを実現することが可能になっています。

玉置:怖がらずにできるのはいいですよね、悪い点は?

廣瀬:悪くなったことは正直思いつかないくらい、いいことだらけだと思います。デジタルコミュニケーションだと人の直接の触れ合いがない、などと言う人もいますが、例えば物理的に距離が遠くても、好きな人と1日何度もLINEでやり取りができれば、むしろ手紙をやり取りしていた時代より、濃密なコミュニケーションが取れているわけです。

玉置:廣瀬さんは最前線で仕事をしていらっしゃいますが、ツールも含めてこれからどんな時代になると思われますか?

廣瀬:テクノロジーの進化はまだまだ終わりません。これから5Gが普及していけば、ウィズコロナの時代と相まって、物理的な接触が少なくなっても、情報の移動量が飛躍的に増えます。リアルとバーチャルで分けることがもう意味をなさないことは、みんな気がついているはずで、例えば自粛期間中に流行したオンライン飲み会も、ちゃんと飲み会として成立しましたし、ビジネスでも、例えばパソナが本社機能の一部を淡路島に引っ越す、みたいに物理的な距離が不利にならなくなっていきます。

とにかく打席に立て!

玉置:私たちも、年齢を重ねた今、「若い人たち」に大いに活躍を期待したいものですね。これから「リーダーになりたい!」と思う若い人たちに、大切なセオリーを教えてください。また、参考になった文献などあれば教えてください。

廣瀬:まず思い浮かんだのが、この新 将命さんの著書「経営の教科書」です。部門のリーダーの延長が社長ですから、経営者を目指す人に限ったことではなく、リーダーを志す人にはぜひ読んで欲しいですね。わかりやすい言葉で、本当に大切なことが書かれていると思います。また、若い方たちにどういうアドバイスをするのが有効かなと考えると、玉置さんは、横浜生まれなのにベイスターズじゃなく阪神ファンですが(笑)、野球に例えると、「とにかく打席に立て」ということですね。最初は打率は低いかも知れないけれど、凡退してもいいからとにかく何度でも打席に立つことが大切だと思います。ビジネスに必要なのは打点です。打率は低くても、打席に多く立つことで、打点は稼げるのです。

玉置:打席に立つために、自分のことを認めてもらって前に出るというのも大切ですよね。御社では女性も大活躍だと思います。私はまだ少数派である女性経営者という自分の立場から、女性の活躍について大きな関心があります。たまきでは男女の人数がほぼ同じで、女性にもどんどんリーダーになってほしいと考えているのですが、御社ではいかがですか?

廣瀬:仕事の内容という点ではワン・パブリッシングでは男女の差は全くないですね。管理職層は男性が多いですが、20代の若手女子社員を編集長に登用するなど、活躍ぶりはイーブンだと感じています。弊社では役職や性別を問わず「さん」付けで呼ぶなど、環境面でも男女差は付けないようにしています。もちろん男性アイドルのファンに向けたメディアとかガールズファッションのメディアとか、女性をターゲットにしたザービスはありますから、そこでは女性としての感性を生かしてほしいし、実際に発揮できています。

安心・安全と心地よさを提供する

玉置:先ほどから話題にも上がっていますが、新型コロナウイルス感染症の流行という、まさに青天の霹靂の事態が起こってしまいました。各企業、少なからず打撃を受けています。でも私たちは前進していかなければなりません。この状況の中で、今後どのような方向性をお考えですか?

廣瀬:やっていることをガラっと変える事はありませんが、アフターコロナ、ウィズコロナの時代にどんなキーワードを意識して事業を行うと共感されるかということは考えます。まず、「安全安心」という言葉。これが前提で商品やサービスをお客さんに届けることですね。それが守りだとしたら、攻めのキーワードは、「心地よさ」です。ユーザーの心地よさにつながる製品やサービスはどういうものか、ということは常に考えています。リアルショップで買っていたものをeコマースで入手できるようにするとか、イベントのプロデュースでも、Zoomなどテクノロジーを使ったイベントをどのように実現するかとか。図らずも制約のある生活を送らなければならなくなり、多少なりともストレスが溜まる中で、限られた場でも心地よく過ごせる方法を考え提供する、そんなテーマが生まれたことは、事業を進めるうえでポジティブな要素だと思います。

玉置:ワン・パブリッシングという社名に込めた思いをお聞かせください。また、座右の銘のような言葉はありますか?

廣瀬:ワン・パブリッシングの「ワン」には、ワンチームや、オンリーワンなどを連想する人が多いと思います。しかし、それ以外にもいろいろな意味を持つ言葉だと思います。読者の方や取引先の皆さんそれぞれが「ワン」の意味を自由に想像してくれれば嬉しいですね。正解はないものです。座右の銘というほどではないですが、会社の全体会などで社員によく言うのは、「ビーナイス(Be nice)」という言葉ですね。ナイスであれ、ということ。それは自分に対しても、人に対しても、そうありたい、そうであって欲しいと思っています。

玉置:厳しい時代ですが、お互いリーダーとしてがんばっていきましょう。本日はどうもありがとうございました。

廣瀬有二(ひろせ ゆうじ)
1965年横浜生まれ。慶應大学文学部卒。(株)学研パブリッシング、(株)パーゴルフなどの出版社に勤務した後、(株)学研プラスの取締役経て、2020年7月1日に(株)学研プラスと(株)日本創発グループの共同出資会社である株式会社ワン・パブリッシングの代表取締役社長に就任。
ワン・パブリッシング公式サイト https://one-publishing.co.jp/

 

関連するコンテンツ